市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝問題研) Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures (ACSIR)

内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を、市民と科学者が協力しておこなうために、市民と科学者の内部被曝問題研究会を組織して活動を行うことを呼びかけます。

ホーム - 福島県「県民健康管理調査」検討委員の検討委員会向けの「秘密会」開催への抗議

【お知らせ】

福島県「県民健康管理調査」検討委員の検討委員会向けの「秘密会」開催への抗議

(市民と科学者の内部被曝問題研究会 理事長声明)

 市民と科学者の内部被曝問題研究会 理事長声明

 福島県「県民健康管理調査」検討委員の検討委員会向けの「秘密会」開催への抗議

 2012105

市民と科学者の内部被曝問題研究会

理事長 澤田 昭二

 

 私たち市民と科学者の内部被曝問題研究会は、「県民健康管理調査」に関する今年911日の福島県立医科大学教授・鈴木眞一の記者会見の内容の検討を進めているとき、毎日新聞等で「県民健康管理調査」の検討委員会における「秘密会」の報道に接しました。

 

これは、同調査の本検討委員会に先立ち「秘密会」を開催し、調査結果に対する見解をすり合わせ「がん発生と原発事故の因果関係はない」などを共通認識とし、秘密会の存在も外部に漏らさぬよう口止めをしていたなどの報道であり(『毎日新聞』2012103日付朝刊)、「第3回『県民健康管理調査』検討委員会(2011724日)」における克明な文書の内容の報道もありました(同紙2012105日付朝刊)。

 

この問題は、2012103日、直ちに福島県議会でも取り上げられ、村田文雄副知事は、「準備会を公表せずに開催したことで誤解を招いたのは大変遺憾。県民の皆様に深くおわび申し上げる」と陳謝しました。しかし、村田副知事は準備会の開催目的について、「検討委員会の議論の促進を図るため、主に資料を(委員に)説明する場として設けた」と釈明する一方、「委員の意見などをあらかじめ調整した事実はない」と説明しましたが、上記報道(105日付)は、村田副知事の発言が虚偽であることを明らかにしました。


この「秘密会」は福島県による原発事故対応策の一環で、本「調査」が子どもたちをはじめとする全住民の命と暮らしを守るためではないことを赤裸々に物語るものです。

 

 一方、東日本大震災以後の日本政府の原発事故対応をみれば、放射能汚染地帯が広範囲に及び「放射線管理区域」に該当する環境下で生活を余儀なくされている子どもたちをはじめとする沢山の人びとがいる現実を直視せず、ただひたすら放射能汚染とその被害を隠蔽ないし矮小化することに汲々としていることが明らかです。

 

ここで「放射線管理区域」とは、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づき、18歳未満の者は立入り禁止とされる特別な管理区域(放射線量が3ヵ月あたり1.3ミリシーベルト、年間で5.2ミリシーベルト、毎時0.6マイクロシーベルトを超える区域)のことです。

 

 本年8月下旬には、内閣府原子力委員会が核燃サイクル政策の見直しを巡り、内閣府原子力委員会が原発推進派だけを集めた「勉強会」と称する秘密会を開いていたことが発覚し、細野豪志原発事故担当相が「中立性、透明性、公正性の観点から不適切だった」として近藤駿介委員長と鈴木達治郎委員長代理を口頭で厳重注意しました(詳細は、後述「2.新聞報道による発覚事項の事実経過」参照)。

 

昨年1216日、野田佳彦首相は事故原発の原子炉が「冷温停止」状態になったとして「原発事故収束宣言」を発しましたが、直近の本年924日の東電発表による「原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果」最新情報が示すとおり、東電福島第一原発からは、現在も毎時1,000万ベクレル(1ヵ月72億ベクレル)と極めて大量の放射能が放出中です(しかも空中への放射性セシウムだけが評価対象で、海水中への漏出は不明)。

 

  したがって、政府の原発推進ならびに放射能汚染の隠蔽・矮小化の意向が福島県当局にも及んでいるものと理解するほかありません。正に棄民政策そのものです。

 

このような異常な状況に鑑み、私は市民と科学者の内部被曝問題研究会を代表し、満身の怒りを込めて日本政府、福島県当局と「県民健康管理調査」の関係者に強く抗議し、次の3点を可及的速やかに同時並行的に実施するよう福島県に強く要求するとともに、日本政府に対して県民とくに子どもたちの命と暮らしを守ることを第一義としてこれら3点を全面的にサポートするよう強く要求します。

 

① 根本的な発想の転換すなわち、地域住民の健康と安全を全面的に守ることを主目標とする調査診療体制を構築すること。

② 毎回の委員会の前に開かれた「秘密会」の内容を全面公開すること。

③「秘密会」主導に関わる「県民健康管理調査」システムを抜本的に改革すること(新たに住民や第三者を加えるなど、福島県当局と県立医大の関係者ならびに、検討委員会の委員、オブザーバー全員の見直しを含む)。

  なお、添付した 2.「県民健康管理調査」検討委員会の項で示すとおり、委員ないしオブザーバーに政府機関(内閣府、文科省、厚労省、環境省)が参画していますので、③の「関係者」にはこれらが含まれます。

 

次頁以降に、この抗議声明に関連した文書を基本データとして添付します。

 

  1. 1.     「秘密会」開催に至る経過と背景
  2. 2.     新聞報道による発覚事項の事実経過
  3. 3.    「県民健康管理調査」
  4. 4.     まとめ


  1.「秘密会」開催に至る経過と背景

 

 昨年311日の東日本大震災による東電福島第一原発の過酷事故直後における放射線影響研究機関協議会の動きと、その中心に位置する放射線影響研究所〈放影研〉の歴史を概観します。

 

(1)「放射線影響研究機関協議会」の一大プロジェクト

 

 東日本大震災から1ヵ月後の411日、放射線影響研究所(放影研)等で構成される放射線影響研究機関協議会(放影研と環境科学技術研究所(青森県六ケ所村)、放射線医学総合研究所(千葉市)、京都大、広島大、長崎大)が、30年間以上にわたり地域住民約15万人の健康調査を継続すると発表しました。


 この協議会は、4月下旬、新たに福島県立医大も加え、県立医大が中心になってこの事業を推進することにしましたが、原発事故後、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして同県に雇われた山下俊一長崎大学教授が県立医科大副学長になりました。同氏は、「私の最大の希望は住民が無用な心配や過度の恐怖を抱かないようにすること」また「年間100ミリシーベルト以下の被曝であれば心配ない」と講演し、放影研の大久保利晃理事長も「住民の不安を取り除くことが最優先」と語っています。

 
 この一連の動きを、共同通信(2011/05/11 20:42)が、「住民15万人を30年以上検査へ 原発事故で研究機関」の見出しで報じました。

 http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051101001009.html


-「東京電力福島第1原発の事故を受け、放射線影響研究所(放影研、広島・長崎市)などでつくる「放射線影響研究機関協議会」が検討している周辺住民の健康検査について、協議会の関係者は11日、検査する住民を約15万人、検査期間は30年以上とする方針を明らかにした。

 

 協議会は福島県立医大(福島市)を新たなメンバーに加えており、13日に福島県立医大で詳細を話し合う会合を開く。検査は原発から30キロ圏内や、計画的避難区域に指定された福島県の飯舘村、川俣町など大気中の放射線量が高い地域の全住民が対象。大規模調査で精度を高め、健康に対する住民の不安を解消するとともに疫学的調査にも利用する。検査期間は、広島・長崎の原爆で放射線が人体に与えた影響を調査してきた放影研が目安として30年以上と提案。必要があれば随時延長する。

 

 4月下旬に福島県立医大の関係者が放影研の施設を視察し、協議会が福島県立医大の加盟を承認した。今後は福島県立医大と福島県が中心になって住民の健康管理を行い、協議会に加盟する放影研と環境科学技術研究所(青森県六ケ所村)、放射線医学総合研究所(千葉市)、京都大、広島大、長崎大の6機関がサポートする。

 

 放影研の大久保利晃理事長は『住民の不安を取り除くことが最優先。早期に態勢を整え、知識や経験を役立てたい』と話している。」

  

 今回、「秘密会」の発覚で全国的に非難の的となった福島県の「県民健康管理調査」は、このような背景の下で進められており、福島原発事故による放射線被曝の影響を隠蔽ないし矮小化することによって、「住民の不安を取り除くこと」が最優先され、子どもたちをはじめとする住民の命と暮らしを守ることが全くないがしろにされています。

 

(2)放射線影響研究所(放影研)の歴史


 そもそも、放射線被曝とくに低線量の長期内部被曝の害悪を問題にする人びとの間では、終戦直後から今日に至るABCC(原爆傷害調査委員会)と放影研の歴史を紐解けば、福島原発事故による同県内の住民(さらには全国の住民)についても、特に内部被曝隠しが本格的に進行するのではないかと、当初から強く危惧されていました。


 米国のトルーマン大統領の指示で1947年に設立されたABCCは、広島と長崎の被爆者12万人の原爆放射線被曝の影響を調査してきましたが、1975年に閉鎖され日米共同運営の放射線影響研究所(放影研)として発足しました。しかし、ABCCも放影研も、原爆から放出された初期放射線の外部被曝の影響が研究の中心で、原爆からの放射性降下物と誘導放射化物質の残留放射線による内部被曝を軽視し、無視し続けてきました。

 

 2003年から始まった原爆被爆者の原爆症認定集団訴訟の中で、残留放射線の影響、とりわけ内部被曝の影響が明らかになり、圧倒的多数の判決において政府側が敗訴しましたが、いまなお日本政府は、原発事故による被曝影響と共通性のある残留放射線の影響を認めようとしていません。

 

 今回の『毎日新聞』のスクープで、福島の現状もまったく同じであることが明白になりました。

  
2.新聞報道による発覚事項の事実経過


103日の『毎日新聞』朝刊によると、事実経過は以下のとおりです。

  http://mainichi.jp/select/news/20121003k0000m040149000c.html


1)専門家が議論する検討委員会を巡り、県が委員らを事前に集め秘密裏に「準備会」=「秘密会」を開いていた。

 

2)準備会では調査結果に対する見解をすり合わせ「がん発生と原発事故に因果関係はない」ことなどを共通認識とした上で、本会合の検討委でのやりとりを事前に打ち合わせていた。

 

3)出席者には準備会の存在を外部に漏らさぬよう口止めもしていた。

 

4)県は、検討委での混乱を避け県民に不安を与えないためだったとしているが、毎日新聞の取材に不適切さを認め、今後開催しない方針を示した。

 

5)検討委は昨年5月に設置。山下俊一・福島県立医大副学長を座長に、広島大などの放射線医学の専門家や県立医大の教授、国の担当者らオブザーバーも含め、現在は計19人で構成されている。

 

6)(検討委は、)県からの委託で県立医大が実施している健康管理調査について、専門的見地から助言する。これまで計8回あり、当初を除いて公開し、議事録も開示されている。

 

7)事務局を務める県保健福祉部の担当者の呼びかけで、検討委の約1週間前か当日の直前に委員が集まり非公開の準備会を開催。会場は検討委とは別で配布した資料を回収し議事録も残さず、存在自体を隠していた。

 

8911日(第8回検討委の直前には)健康管理調査の一環である子供の甲状腺検査で甲状腺がん患者が初めて確認されたことを受け、委員らは「原発事故とがん発生の因果関係があるとは思われない」などの見解を確認。その上で、検討委で委員が事故との関係をあえて質問し、調査を担当した県立医大がそれに答えるという「シナリオ」も話し合った。

 

9)検討委では委員の一人が因果関係を質問。県立医大教授が旧ソ連チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんの患者が増加したのは事故から4年後以降だったことを踏まえ因果関係が否定され、委員からも異論は出なかった。

 

10)昨年7月の第3回検討委に伴って開かれた準備会では、県側が委員らに「他言なさらないように」と口止めもしていた。

 

11)毎日新聞の取材に、県保健福祉部の担当者は準備会の存在を認めた上で「あらかじめ意見を聞き本会合をスムーズに進めたかった。秘密会合と言われても否定できず、反省している。(今後は)開催しない」と述べた。

 

12)福島県の県民健康管理調査は、全県民を対象に原発事故後の健康状態の調査を30年にわたり継続する方針で、費用は国と東電が出資した基金で賄う。【日野行介、武本光政】(「秘密会を終え、検討委員会の会場に向かう委員会メンバーら=福島市杉妻町で911日午後155分ごろ、武本光政撮影」と説明のある写真付き)。

 

 

 「秘密会」については、本年825日付『毎日新聞』朝刊に、核燃サイクル政策の見直しを巡り、内閣府原子力委員会が原発推進派だけを集めた「勉強会」と称する秘密会議を開いていたことが報じられたことが想起されます。

  http://mainichi.jp/feature/news/20120825ddm001010043000c.html

1)近藤駿介原子力委員長が有識者会議「新大綱策定会議」を巡り昨年128日、原発依存度について「最後はコントロールできる」と自ら原発維持の方向で取りまとめる方針を明らかにしていたことが分かった。毎日新聞の情報公開請求に対し、経済産業省資源エネルギー庁が24日開示した職員作成の議事メモに記載されていた。

 

2)秘密会議は昨201111月〜20124月、計23回開かれ、近藤委員長は1回目から連続4回出席したことが判明している。近藤委員長はこれまで秘密会議への出席を認める一方「あいさつしただけ」とし監督責任にとどまるとの見解を示していた。議事メモによると、策定会議や核燃サイクル政策を議論する有識者会議(小委員会)の議題も指示しており、秘密会議を主導していた実態が判明した。

 

3)エネ庁が公開したのは7回分計58ページの議事メモ。このうち昨年128日分に近藤委員長の発言があり、将来の原発依存度を話し合った策定会議について「円滑に議論は進まないかもしれないが、いざとなれば(原子力)委員会が引き取る。(議論がまとまらず、依存度ゼロかどうか)両論併記としても最後の打ち出し方はコントロールできる」としていた。当時、原子力委は策定会議の議論をベースに原子力政策全般を定めた「新大綱」を作成する方針で、「最後の打ち出し」は新大綱を指し、原発維持で結論づける姿勢を示した。

 

4)同日分のメモによると、近藤委員長は「論点ペーパーをまとめてみたので、これをベースに大綱(策定)会議で議論してもらったらどうか」「(高速増殖原型炉)もんじゅについて(次の)小委員会で検討したらどうか」などと指示していた。

 

5)近藤委員長は24日、取材に対し「(議事メモの発言は)自分にとってはあいさつの世界。委員長としての決意を語っただけ。(新大綱は)最後は私の責任でやる」と話した。【核燃サイクル取材班】

  

  また、本年831日付『毎日新聞』朝刊の記事もあります。

http://mainichi.jp/feature/news/20120831ddm002010067000c.html

 

1)細野豪志原発事故担当相は30日、「中立性、透明性、公正性の観点から不適切だった」として、近藤駿介委員長と鈴木達治郎代理を口頭で厳重注意した。近藤委員長は給与1カ月分(1055000円)、鈴木委員長代理は半月分(465500円)を自主返納する意向を示した。しかし、結果に影響はなかったとして、6月に政府に報告した決定文は修正しなかった。

 

2)原子力委は、核燃サイクルの将来の選択肢を公開で議論する小委員会とは別に、電気事業連合会などの推進派だけを集めた非公開の「勉強会」を昨年11月〜今年4月に計23回開催。今年6月、2030年の原発比率が15 %の場合は使用済み核燃料の再処理と地中処分との併用が最適などとする決定文を政府に報告した。

 

3)内閣府の検証チームは86日、「(秘密会議によって)結論が影響を受けた可能性も否定できない」と指摘。同委は30日の臨時会で対応を協議したが、決定文は見直さないと決めた。政策決定過程の透明性や公正性を保つため ▽委員長を含む委員3人以上が会合する際は概要メモを残す ▽決定文案に対するコメントを事前に民間事業者に求めないなどの対策をとるという。

 

4)内閣府原子力政策担当室の幹部職員3人について、秘密会議で原発推進側に公開前の資料を配るなど文書管理が不適切だったとして、松元崇事務次官が同日、口頭で厳重注意した。【阿部周一】

  

 要するに、中央政府も地方政府も、この種の委員会では「秘密会」が常態化しているという許しがたい実態があるということです。

 

 

.「県民健康管理調査」検討委員会    

 

福島県HPの「県民健康管理調査について」から「県民健康管理調査」検討委員会の要点を抽出すると、前段に「福島県では、東日本大震災やその後の東京電力福島第一原子力発電所事故により、多くの県民が健康に不安を抱えている状況を踏まえ、長期にわたり県民のみなさまの健康を見守り、将来にわたる健康増進につなぐことを目的とした『県民健康管理調査』を実施しています。」とあり、 後段で「将来にわたる健康増進につなぐことを目的」とうたっています。しかし、「診療」という言葉はありません。

 

したがって、この事業は名称のとおり飽くまでも「調査」が主目的です。ただし、被曝実態の隠蔽や矮小化をうたっていないことは言うまでもありません。

  

(1)「県民健康管理調査」検討委員会設置要綱(抜粋)

 

1 福島第一原子力発電所事故による県内の放射能汚染を踏まえ、福島県が、県民の健康不安の解消や将来にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として実施する「県民健康管理調査」(以下、「調査」という。)に関し、専門的見地から広く助言等を得るために、「県民健康管理調査」検討委員会(以下、「委員会」という。)を設置する。

 

2条 委員会は、前条の目的を達成するため、次の事項を所掌する。


 (1)調査の実施方法等の検討に関すること。

   2)調査の進捗管理及び評価に関すること。

   3)その他、調査の実施に必要な事項に関すること。


3条 委員会は、知事が指名する有識者により構成する。

 

   2 委員会の座長は知事が指名し、座長は委員会の会務を総理する。

 

   3 委員会に座長代行を置き、座長がこれを指名する。

 

4条 委員会は、座長が招集する。

 

   2 座長は、必要があると認めるときは、委員会の会議に委員以外の者の出席を求め、その意見を聴取することができる。

 

   3  委員は、やむを得ない理由により会議に出席できない場合は、代理人を出席させることができる。

 

6条 委員会の庶務を処理するため、福島県保健福祉部健康衛生総室に委員会の事務局を置く。

 

第7条 この要綱に定めるもののほか、委員会の運営に関し必要な事項は、知事が別に定める。

 

附則 この要綱は、平成23519日から施行する。

 

 第1条から、この「調査」の主目的は「県民の健康不安の解消」であり、「診療」を含んでいないことがわかります。第2条では、「調査すること」だけが仕事であり、調査を診察につなげ、さらに治療につなげて県民を放射線被曝から如何に守るかという意識が全く欠落しています。そして、第3条、第7条のとおり、すべて福島県知事の下で行われ、事務処理は福島県保健福祉部健康衛生総室が当たることになっています(第6条)。

  

(2)委員名簿(2012911日、第8回委員会)


<委 員>

:独立行政法人放射線医学総合研究所理事

:公立大学法人福島県立医科大学理事兼副学長(医学部病理病態診断学講座主任(教授))

子:日本学術会議副会長(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長)

:国立大学法人広島大学原爆放射線医科学研究所長・教授(公立大学法人福島県立医科大学副学長)(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)

**:福島県保健福祉部長

:公益財団法人放射線影響研究所主席研究員

***:環境省環境保健部長

 斗 :社団法人福島県医師会常任理事

:公立大学法人福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座主任(教授)

:公立大学法人福島県立医科大学副学長(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)


印:2011517日(第1回委員会)からの委員。

**印:福島県保健福祉部長ポストにつき、当初は阿久津 文作氏。

***印:2012125日(第5回)、同426日(第6回)では、オブザーバーとして参加していました。


<オブザーバー>

弘:内閣府原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チーム医療班参事官

宗太郎:文部科学省科学技術政策研究所総務研究官

男:厚生労働省大臣官房厚生科学課健康危機管理官

亮:公立大学法人福島県立医科大学医学部小児科学講座主任(教授)

也:公立大学法人福島県立医科大学医学部産科婦人科学講座主任(教授)

鈴木 **:公立大学法人福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座教授

大津留  :公立大学法人福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座

    :公立大学法人福島県立医科大学医学部放射線生命科学講座教授

興:公立大学法人福島県立医科大学医学部神経精神医学講座准教授

印:2011517日(第1回委員会)からのオブザーバー。なお、第1回委員会のオブザーバーとして、次の2名も参加していました。 

西 哉(内閣府原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チーム審議官 経済産業省大臣官房技術総括審議官)、矢 也(厚生労働省大臣官房技術総括審議官)。以後も、内閣府と厚労省からは人は異なっても毎回参加しています。

**印:2011724日(第3回委員会)からのオブザーバー。

 

 以上の委員会名簿で明確なとおり、福島県関係者以外に、政府から内閣府、文科省、厚労省、環境省(途中から)が参加しています。また、独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)、財団法人放射線影響研究所(放影研)、国立大学法人広島大学原爆放射線医科学研究所(広大原医研)が参加し、現在県立医大副学長の山下俊一は2011618日(第2回委員会)までは国立大学法人長崎大学医歯薬学総合研究科長(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)の肩書であり、同年724日(第3回委員会)から公立大学法人福島県立医科大学副学長(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)として出席しています。なお、山下氏の本籍は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科原爆後障害医療研究施設社会医学部門放射線災害医療研究分野(略称「原研医療」)教授(研究科長の任を2期目途中で辞し、休職中)です。


 したがって、「県民健康管理調査」には、日本政府ならびに、わが国の原爆症に深く関わる機関すなわち、放影研、放医研、広大原医研、長崎大原研医療等が深く関与しています。

  

(3)山下俊一副学長(検討委員会座長)

 本年911日の第8回委員会は、福島県の子どもの甲状腺検査で38,000人の中から初めて1人が甲状腺ガンと診断されたことについて、「チェルノブイリ原発事故後の発症増加は最短で四年」等を理由として原発事故との因果関係を否定しました。

 

 しかし、東日本大震災以前の山下氏は、ある講演で、通常なら子どもの甲状腺ガンは100万人に1名と述べています(山下俊一「放射線の光と影:世界保健機関の戦略」2009年)。また、チェルノブイリ原発から150キロ離れたベラルーシのゴメリ州の小児甲状腺ガンは、原発事故の翌年に4倍に増加したデータを示しており、さらに「主として20歳未満の人たちで、過剰な放射線を被ばくすると、10100 mSvの間で発がんが起こりうるというリスクを否定できません」として、「チェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、『転ばぬ先の杖』としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。」とも述べていたのです(山下俊一「チェルノブイリ原発事故後の健康問題」2000年)。

 

 したがって、山下氏は、東日本大震災以降、180度変身し、確信犯的に重大な虚偽を振り撒いて福島県民を欺き続けていることになります。

 

 長崎大学HP内の「原研医療」のページに、山下俊一氏の福島医科大学副学長としての抱負が語られています(「20117月 長崎から福島へ」)。


 その神髄は、「発信源によって異なる内容が流れるという情報災害も加わる中で、科学的知見に基づく放射線健康影響について、正しくそして粘り強く情報発信する取組み」を行うこと(第2段落)と、「新たな国際放射線安全防護基準の策定」に励むこと(最終段落)に尽きます。


 つまり、「放射能環境汚染の中で困難な生活を余儀なくされている福島県住民の不安と不信は逆に募るばかりで、放射線安全防護に関する情報の錯綜による社会混乱をきたして」(第1段落)おり、「この未曽有の原発事故から5ヶ月目を迎え、拡大した放射能環境汚染の中で、福島県内、県外を問わず、放射能汚染が心配される地域で子供を持つ家庭の親たちの心労は想像を絶するものがあります」(第2段落)が、医療はもとより診療もまったく行わないということです。


 山下氏は、福島県内各所で開いた講演会で「100ミリシーベルトまでは大丈夫。避難する必要はない。笑っていれば被害が少ない」といった発言をして、県民に安心感を与え、移住や疎開の必要性を感じさせなくすることに力点を置いています。その山下氏が福島県放射線健康リスク管理アドバイザーであり、「検討会」の座長なのです。

 

4.まとめ


 はじめの「経緯と背景に」で述べたように、福島市や郡山市などでも、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づいて18歳未満の者は立入り禁止とされる「放射線管理区域」(3ヵ月あたり1.3ミリシーベルト、年間では5.2ミリシーベルト、毎時0.6マイクロシーベルトを超える区域)に相当する地域に、放射線感受性の高い子どもたちをはじめとする大勢の人びとが無防備のまま住み続けています。そしてその背景には、日本政府と福島県庁ならびに、放影研などが組織する「放射線影響研究機関協議会」による大掛かりな放射能汚染被害の矮小化と内部被曝隠しがあります。

 

 福島県や近隣県はもとより国内全域で、子どもたちの甲状腺がん等をはじめとする晩発性放射線障害の本格的な発症の可能性に備え、国内外の英知を結集して「自主・民主・公開」の原則に基づく緻密な調査・検診と診療・治療体制を早急に構築して運用するとともに、原発事故に係る抜本的な医療保障制度の確立が急務であることを最後に強調します。

ページトップへ