市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝問題研) Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures (ACSIR)

内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を、市民と科学者が協力しておこなうために、市民と科学者の内部被曝問題研究会を組織して活動を行うことを呼びかけます。

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【お知らせ】

国連人権理事会「健康を享受する権利に関する特別報告者」アナンド・グローバー氏への要望書

(市民と科学者の内部被曝問題研究会)

 グローバー氏の福島視察(2012年11月15~26日)に関して、内部被曝問題研究会から11月8日に要望書(リンク)を提出したところ、その日のうちにジュネーブの国連事務局から連絡がきました。
要望書で取り上げた点を福島県民から直接ヒアリングをして下さり、その結果を26日離日前に日本記者クラブで報告なさいました。当会が訴えてきた様々な問題を的確に指摘する内容です。会見内容は日英語で国連広報センターにアップされています。
http://unic.or.jp/unic/press_release/2869/
記者会見の質疑応答部分でのグルーバー氏の発言が注目されますので、ユーチューブ映像の38分あたりから是非ご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=ET2dVWgOmC4


2012118

国連人権理事会

健康に対する権利に関する特別報告者

アナンド・グローバー殿

 

福島訪問(20121115日〜26日)について

拝啓

 「市民と科学者の内部被曝問題研究会」を代表して、お手紙をさしあげます。当会は約600 人の会員を擁し、その中には多くの医師もおります。貴殿の福島訪問中に特に調査をお願いしたいと、以下の事実をお知らせ申し上げます。
福島県民、特に子ども達がどのような状況におかれているかをお知らせいたします。

1. 子どもたちが住まわされている地域の汚染状況について
 福島県と日本政府が市民に普通の生活を勧めている地域はいまだに高濃度汚染地域です。福島県庁所在地の福島市をはじめ、伊達市、郡山市など、「安全圏」とされていますが、実際には高い汚染度です。以下は市民と放射線専門家による線量計測の例です。

1.1  伊達市小国地区、小国小学校付近の「通学バスの降り場は毎時10μSv を超え」、プールから5m ほどのフェンスの下(学校の敷地外)は「毎時27μSv 前後」だと、2012 年10 月18 日に測定を行ったベラルーシのベルラド研究所長のアレクセイ・ネステレンコ博士が報告しています。博士は最近、福島を訪問し、このような高濃度汚染地区に子どもたちが住み、学校に通っていることに衝撃を受けたそうです。博士の測定とコメントについては『週刊金曜日』(2012 年10 月26 日号)に報告されています。詳細はネステレンコ博士にお尋ねください。
この線量は両方とも、ウクライナの1991 年禁止区域に相当します(2011年ウクライナ政府刊行『チェルノブイリ事故から25 年”Safety for theFuture”』)。日本の法律では年間1mSv が一般市民の許容線量です。

1.2  郡山市にある福島農業総合センターが2012 年10 月29 日に発表した実験結果は衝撃的なものでした。全く汚染されていない大根をコンクリートの建物の軒下(空間線量0.6μSv/h)で6 日間乾燥させたところ、0Bq だった大根から3421Bq/kg 検出されたのです。報告書は、「乾燥による放射性物質の濃縮ではない」こと、「乾燥時の塵の付着が原因である」と結論付けています。これから容易に推測できるのは、付近の学校に通う子どもたちはこのチリを吸ってきたということです。この報告書は以下のアドレスからアクセスできます。
http://www4.pref.fukushima.jp/nougyou-centre/kenkyuseika/h24_radiologic/121029_siryou.pdf

1.3  下の写真は郡山市在住の武本泰博士が2012 年11 月5 日に撮影したもので、場所は郡山市開成山公園の駐車場です。子どもは安全な場所で遊び、教育を受ける権利を与えられるべきです。


1.4 政府による放射線測定の虚偽
当会副理事長・矢ケ崎克馬教授(琉球大学名誉教授、物性物理学)と測定グループ(主に福島県住民)は2012 年10 月5 日に記者会見を開き、政府の測定データと矢ケ崎チームの線量測定の違いを発表しました。詳細は http://www.acsir.org/ をご覧ください。120 を超える広範囲のモニタリングポスト周辺(除染されていない箇所)では、政府のモニタリング調査より、50%~70%高いことがわかりました。
 その1 ヶ月後の2012 年11 月7 日に、文部科学省はモニタリング測定値が実際より低かったことを認めました。文部科学省のプレスリリースをご覧ください。
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/7000/6437/24/203_1107.pdf


1.5  福島県と日本政府は福島復興を謳い、警戒区域から避難した住民を警戒区域に呼び戻そうとしています。上記の地域より遥かに高い線量の区域です。
 行政は若者を呼び戻そうとして、以下のポスター(2012 年10-11 月)に表されているように、職員を募集して、警戒区域への配属を計画しています。ポスターには警戒区域の双葉町・大熊長・富岡町・浪江町などに配属と書かれています。
 もし、県が若者をこのような高濃度汚染地区に送り、住まわせ働かせるとしたら、明らかな人権侵害であり、日本国憲法で保証されている健康・安全・幸福な生活を脅かす憲法違反になります。(首相官邸ホームページ掲載の日本国憲法参照)


2 汚染食品と流通、給食問題


 福島県と日本政府は食品と汚染について、混乱したメッセージを流し続けています。首相が福島県産のコメの全袋検査状況を視察したという報道(『福島民報』2012 年10 月8 日)のわずか4 日後に農林水産大臣が記者会見で全袋検査の停止を示唆しました。抽出検査で問題ない場合は、その地区のコメは出荷してよいという内容です。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/10/post_5227.html
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/121012.html
 大臣の決定は、福島県の子どもたちの給食だけでなく、日本中の子どもたちの給食に甚大な影響を及ぼします。チェルノブイリの経験から、ホットスポットは同地区内に均等にあるわけではなく、汚染度の低い箇所と高い箇所が混在することが知られています。だからこそ、全袋検査が導入されたわけです。少なくとも、子どもたちはどんなことをしてでも、いくらかかろうとも守られるべきです。


3 福島県健康管理調査


 福島県立医大の山下俊一教授と鈴木真一教授が率いる福島県民対象のこの調査は、県民と子どもたちの健康を考慮していないと問題にされています。山下教授は次の発言で世界的に知られています。「100mSv までは放射線被害は出ない」と市民に対して言ったことです。2011 年5 月3 日の市民とのやり取りがOurPlanetTV に収録されていますので、ご参照ください。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1-37
 今年始め(2012 年1 月16 日)に山下教授と鈴木教授は日本甲状腺学会(山下教授が会長)の会員に手紙を送り、一次検査でのう胞が5mm 以下、結節が20mm 以下の0 歳から18 歳の子どもの診察検査は2 年間行わないようにという主旨の内容でした。この手紙の存在は前述の郡山市民・武本博士が開示請求によって手に入れ、公になりました。
 この福島県健康管理調査チームの楽観的な見方に対し、医師から警告が出されています。松崎道幸医師(ACSIR 会員)の報告を参照してください。
http://fukushima-evacuation-e.blogspot.jp/2012_07_01_archive.html

 結論として、福島県健康管理調査チームは、福島県の市民と子どもの健康を守る点で医師としての責務を果たしていません。たとえば、超音波検査の詳細な結果を被験者に開示する義務を怠り、のう胞や結節のみつかった子どもの再検査を拒否し、他の医療機関へ圧力をかけて、福島の市民が放射能関係の検査医療を求めても拒否するよう指示するなどです。福島県住民はこのような扱いを受けたという例を多く体験しています。これも人権侵害です。
市民と科学者の内部被曝問題研究会からのお願い上記の件を証明するためにも、是非、福島県住民から直接情報を得ていただき、国連人権理事会への情報と訴えを聞いていただきたいとお願い申し上げます。


敬具


沢田昭二:名古屋大学名誉教授(物理学)
市民と科学者の内部被曝問題研究会 理事長

 


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