市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝問題研) Association for Citizens and Scientists Concerned about Internal Radiation Exposures (ACSIR)

内部被曝に重点を置いた放射線被曝の研究を、市民と科学者が協力しておこなうために、市民と科学者の内部被曝問題研究会を組織して活動を行うことを呼びかけます。

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事務局から

「市民と科学者の内部被曝問題研究会」結成への動き他

田代真人
内部被曝研事務局

3・11東電原発メルトダウン事故で、日本国民は否応なく予期せぬ放射能との不条理な共存生活を余儀なくされている。レベル7事故は、全世界にチェルノブイリ以来の衝撃を与えた。原発からは、膨大な放射線が世界規模で放出された。近隣住民は避難し、東北北海道や関東地方、遠くは近畿・中国・九州地方の住民までが放射能の恐怖に怯えている。その放射能被害の大部分は放射線粒子を吸い込んだり、食品とともに食べたりする内部被曝である。

ところが、ひとことで言って、政府が依拠している国内外の「放射線防護体系」に基づく内部被曝の「知見」と施策には大いに問題がある。低線量・内部被曝への徹底した軽視である。わが国政府あるいは政府系学者らは、「100mSv以下の被曝では病気を引き起こす有意な証拠はない」という。福島県及び周辺地域では、日本の従来基準の「放射線管理区域」での日常生活を強いる状況となっている。福島県では、学校生徒や住民はチェルノブイリ地域の「避難」地域での生活を強いられている。日本政府やそれが依拠するICRPなどの国際団体、政府系学者らは、日本と世界の市民の人権を軽んじ、命を危険にさらしている。この状況は、ただちに克服されなければならない。

このままでは、原発由来の被曝者を救えない。この事が、私の出発点であった。

194586日・9日以降、被爆者は「残留放射線」による内部被曝に苦しんでいる。しかし政府は、この被爆者を「原爆による被害」と認めることを拒み続けた。58年間、被爆者たちは耐えかねた。そして、20034月、認定集団提訴が始まったのだ。以来、2006年大阪、広島、2007年名古屋、仙台、東京、熊本各地裁と原告らは勝利した。

厚労省は同年、「原爆症認定の在り方にかんする検討会」を設置、日本被団協や被団協推薦の専門家の意見も聞いたが、認定を拒否する態度は変えない。さらに2008年仙台高裁、大阪高裁、長崎地裁、大阪地裁、札幌地裁と、原告の基本的主張を認める判決が続いた。司法の判断にかかわらず、国は「残留放射線や内部被ばくの影響は無視できる」という主張を変えようとしない。「未解明なものは影響がなかったことにする」という態度だ。

日本政府が準拠する国内外の「放射線防護体系」が、内部被曝・低線量被曝をなぜ軽視するのか。これは歴史的・政治的な原因に由来する。琉球大学の矢ケ崎克馬名誉教授(物理学)は「背景には、『核兵器は破壊力はあるが、放射線で長期にわたり苦しめるものではない』としたい米の核戦略があった」と指摘している。

原爆症認定にたいする国の態度を支えているのは、政府役人を始め多数の学者・有識者たちだ。彼らは、「国際的知見」をもとに、今の原発による被曝問題の「判定者」でもある。そして、「100mSv以下は大丈夫」(鈴木元、山下俊一氏ら)などと言うことで新たな神話をつくりだそうとしているように見える。内部被曝問題では政府を始め圧倒的多数の学者・有識者たちは現実を見ず、むしろ隠す方に加担している。中でも、大学、学会、業態を牛耳る「学者」と呼ばれる人たちの言動は尋常ではない。そこには、科学者として、長年苦しむ被曝者の現実を見ることも、原発放射能に怯える国民を、命の問題として考える姿勢も、異論に対して真摯に向き合おうとする姿勢も感じられない。

なぜ、彼らはここまで自説に固執するのか。私は、2007104日に開かれた「原爆症認定の在り方に関する検討会」で交わされた議論を想起する。

ここで、澤田昭二氏は、「残留放射線被曝と内部被曝」について詳細に証言した。それに対して、丹羽太貫(座長代理)氏は「先生の線量評価が本当であれば、これは今の防護体系はまったく成り立たないということになってしまう」と発言した。ある意味正直ではあるが、彼らが、「国際的知見」と称してその「防護体系」にしがみつく理由を如実に示している。

これでいいのだろうか。原爆被爆者を、原発放射能被曝者を救えるのだろうか。

私たちは、原爆被爆者や現在と将来の原発被曝者らが「科学」や政治からとり残され、歴史のはざまに埋没してしまうかもしれない、という強い危機感を共有している。

学問の装いをこらした「放射線防護体系」を変えるたたかい、あえて言えば、科学への冒涜を正すたたかいが必要であり、それは、歴史への責任であると言える。そのために私たちは、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」を組織した。

私たちの目的は、原発由来の被曝について、未だ苦しむ広島・長崎・ビキニの被爆者を再現させるな、ということである。苦しみの根源は内部被曝にある。それは、内部被曝を軽視する日本政府・放射線防護の各組織の施策を改めさせることによって初めて達成できる。

そのためには、彼らの非科学性を歴史的・学問的に告発し、各種の「基準」の誤りを指摘し、原発由来の放射能被害者始め、市民の命を危険にさらさせないよう、具体的対応を取らせなければならない。

また、政府や政府系各機関・学者らによる圧倒的宣伝に組み込まれているメディアも含め、市民へ事実を知らせる活動が必要である。私たちは、あらゆる市民と科学的知見を共有し、政府への機敏な勧告、的確な批判・反論、建設的提言、記者会見、論文・著作の発表や紹介、シンポジウム、一般市民を対象とした市民セミナーの開催など、機会をとらえて活動する。

内部被曝・低線量被曝を正当に評価させる戦いは、相手が国内外とも強大であるがために平坦ではない。だからこそ、市民と科学者は共同する。科学者は点の存在ではなく、線となり、面となって市民とともに戦わなくてはならない。国内だけでなく、国外の意を同じくする団体・個人とも連携する。

私たちが「市民と科学者の内部被曝研究会」を結成したのは、唯一そのためだけである。

◆「市民と科学者の内部被曝問題研究会」結成への動きから

  • ・2011年7月 岐阜市で開かれた「科学者集会」内部被曝問題を澤田昭二、松井英介、矢ヶ崎克馬氏が講演。同時に田代と「会」結成を相談
  • ・9月 矢ヶ崎、澤田、松井、田代ら個別に「会」結成へ相談。勉強会を計画。
  • ・10月9,10日「内部被曝」問題で澤田、松井、矢ヶ崎、高橋博子、中須賀徳行、牟田おりえ、松井和子、田代ら8氏が合宿勉強会
  • ・11月7,8日「内部被曝」合宿勉強会。
  • ・12月8,9日「内部被曝」合宿勉強会。
      「市民と科学者の内部被曝問題研究会」結成へ具体案協議。

 

2012年の計画案

  1. 事務所の設立(東京)2011年~2012年
  2. 「内部被曝研」ホームページ公開 2011年12月
  3. 内部被曝研会員・賛助会員の募集(主にHP上にて)、第一回総会(4月?)
  4. 2012年1月27日記者会見(「内部被曝研」設立お知らせ)
  5. 内部被曝を中心に、日本政府への勧告(2012年1月~12月)
  6. 講演活動 2011年から継続中、「ブックレット」、「NewsLetter」の発行
  7. 2012年1月15日「脱原発世界会議」(横浜)で「内部被曝研」・講演会とシンポジウム
  8. 福島を中心とする医療・健康に関する医師のネットワークづくり
  9. 市民向け「内部被曝」連続セミナーの開催2012年4月~12月
  10. 原爆・原発由来放射線および内部被曝に関する裁判への出廷、意見書提出
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